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サービスブループリントとは?作成の基本となる4要素や手順を解説
サービス提供の分析や改善をするために、サービスブループリントは欠かせないツールの一つです。
今回は、サービスブループリントの基本から具体的な活用方法、カスタマージャーニーマップとの違いまで、実践に役立つポイントを解説します。
目次
サービスブループリントとは、サービスがユーザーに提供されるまでの一連のプロセスを時系列で表すツールのこと
サービスブループリントは、あるサービスがユーザーに提供されるまでの一連のプロセスを、サービス提供者側の動きやシステムの挙動と合わせて時系列で表したツールです。主にサービスの設計や、運用改善のために活用されています。
ブループリント(blueprint)とは「青写真・設計図」を意味する言葉で、サービスブループリントはまさに、サービス提供の設計図のような役割を果たします。この手法は、1980年代前半にリン・ショスタック氏によって提唱されました。
サービスブループリントの目的
サービスブループリントを作成する主な目的は以下の4点です。
- サービス実現に必要なプロセスの可視化と、関係者間の理解を促進する
複数の部門やシステムが連携するサービスにおいて、提供までの全体像を可視化することで、関係者全員がサービス全体を俯瞰的に理解することを促します。 - ユーザー体験を改善する
サービス提供のプロセスを分析することで、ユーザー体験の課題を発見し、改善につなげることができます。 - サービス提供プロセスの問題点を特定する
可視化されたプロセス上の無駄や非効率性を発見し、オペレーションの改善ポイントを明らかにします。 - 部門や組織を越えた協力を促す
サービス提供のプロセスへの理解が深まることで、異なる立場のメンバー間のコミュニケーションを円滑にし、協力を促します。
このように、サービスブループリントは、サービスのバックグラウンドを可視化し、ユーザー体験と内部のオペレーションを同時に分析・改善するためのツールといえます。事業の立ち上げ段階での設計や、既存サービスの改善などに広く活用できます。
サービスブループリントの構成要素
サービスブループリントは、大きくフロントステージとバックステージの2つの領域に分かれています。それぞれの領域に2つずつの要素があり、合計4つの要素から、サービスブループリントが構成されます。
フロントステージ
フロントステージは、ユーザーが直接目にするサービスの側面を指します。フロントステージの構成要素は以下の通りです。
- カスタマーアクション:タッチポイント(ユーザーとサービスの接点)におけるユーザー自身の行動。
例)商品を手に取る、ボタンを押す、店員に話しかける、など - フロントステージアクション: ユーザーの行動に対するサービス提供者側の対応・アクション。
例)接客対応、画面遷移、メール送信など、ユーザーから見える範囲での事業者側のアクション
バックステージ
一方のバックステージは、ユーザーからは直接見えないサービス提供の舞台裏の部分を指します。バックステージの構成要素は以下の通りです。
- バックステージアクション: ユーザーに見えないところで行われる事業者側のアクション。
例)在庫管理、帳票処理、清掃など、密接にフロントステージアクションをサポートするもの - サポートプロセス: サービス提供を下支えするプロセスやシステム。
例)調達、製造、物流、トレーニング、ITシステムの維持など、間接的にサービス全体を支える活動
3つの境界線
基本的な4つの要素は、3つの境界線によりそれぞれの立場が明確に分けられています。
- インタラクションの境界線:カスタマーアクションとフロントステージアクションの境界線
顧客の行動と、サービス提供側の顧客への直接的な行動を区別しています。 - 可視境界線:フロントステージアクションとバックステージアクションの境界線
顧客に見える行動と、顧客には見えない行動を区別します。 - 組織内のインタラクションの境界線:バックステージアクションとプロセスの境界線
顧客への応対を担当する従業員と、顧客と直接的にはやり取りしない従業員とを区別します。
補助的な要素
サービスブループリントには基本的な4要素のほかに、補助的な要素を使うこともあります。これは、サービスブループリントを補足したり、基本的な4つの要素がそれぞれどのように関わりあっているのかを表したりするためのものです。
プロジェクトの性質や目的に応じて、このような要素を用いたアレンジを加えると良いでしょう。
- 矢印:要素間の関係、依存関係を表すために用います。
「→」は、一方向のやりとりを示し、「↔」は合意の必要性や共存関係を示します。 - 時間:時間経過とサービスの良し悪しの関係を表します。
例)会計の待ち時間、料理提供やデリバリーまでの時間など - 規則や指針:システム最適化のために、変更可能な規則や指針を表します。
例)食品の規制、セキュリティポリシーなど - 感情:顧客と従業員の感情を表します。
- 指標:顧客のゴール(サービスを通して顧客が達成したい目標)に対する指標を表します。
例)顧客の満足度など
サービスブループリントの作成手順
サービスブループリントの作成は、以下の6つのステップで進めます。
1. 目的とアウトプット要件を明確にする
まずは、サービスブループリント作成の目的を明確にします。新規サービスの設計、既存サービスの改善、部門間連携の課題解消など、目的に応じて、求められるアウトプットの粒度も変わってくるためです。
例えば、新規サービスの設計段階では、サービスのコンセプトを具現化し、実現可能性を検証するために、やや抽象度の高いサービスブループリントを作成することが有効でしょう。一方、既存サービスの改善を目的とする場合は、現状のオペレーションを詳細に可視化し、問題点や改善の機会を見出すことに焦点を当てる必要があります。
目的に応じて、サービスブループリントに盛り込むべき情報や粒度を、関係者間で擦り合わせておくことが大切です。
2. カスタマーアクションを書き出す
次に、サービスを利用する際のユーザーの行動(カスタマーアクション)を、時系列で書き出します。ここではユーザーの視点に立ち、サービスとの接点で起こる行動を、具体的に想定することが重要です。
例えばECサイトでの購買プロセスを例にすると、「サイトにアクセスする」「商品を検索する」「商品ページを閲覧する」「カートに入れる」「購入手続きを進める」「決済する」といったユーザーアクションが想定されます。
すでにカスタマージャーニーマップなどでユーザーの行動を整理している場合は、そこからアクションを抽出することもできます。ユーザーへのインタビューや、観察調査から情報を得ることも有効でしょう。この段階では、ユーザー視点に立って、行動の流れを押さえることが重要です。
3. フロントステージアクションを書き出す
カスタマーアクションの流れが整理できたら、次はそれぞれのアクションに対して、サービスの提供者側がどのように応えるのか、具体的なアクション(フロントステージアクション)を書き出していきます。
先ほどのECサイトの例では、「商品検索機能の提供」「商品情報の表示」「カート機能の提供」「決済手段の提供」などが、フロントステージでのアクションに当たります。
重要なのは、あくまでもユーザーから見える範囲でのアクションを書き出すことです。ユーザーの行動に対してどのようにレスポンスするのかを可視化します。
また、1つのカスタマーアクションに対して、複数のフロントステージアクションが想定される場合や、特にアクションを取らないという場合もあるでしょう。カスタマーアクションとの対応関係を適切に見極めることが求められます。
4. バックステージアクションを書き出す
次は、フロントステージアクションの舞台裏で必要になるアクション(バックステージアクション)を書き出します。バックステージアクションは、ユーザーの目には直接触れないものの、サービス提供に不可欠な従業員の行動やシステムの挙動を指します。
ECサイトの例で言えば、「在庫管理」「注文情報の処理」「梱包・発送手配」「代金の回収」といった業務プロセスが、バックステージアクションに該当します。
ここで重要なのは、フロントステージアクションとの関係性を明確にすることです。表向きのサービスを維持・実現するために、水面下でどのような業務オペレーションが必要になるのかを可視化し、全体の業務設計や人員の計画、システム設計などに役立てることができます。
5. サポートプロセスを書き出す
次は、フロントステージ・バックステージのアクションを支えるサポートプロセスを書き出します。サポートプロセスは、個々の業務オペレーションの基盤となる、組織的・構造的な仕組みを指します。
具体的には、業務マニュアル、トレーニング体系、ITシステム、協力会社との契約、社内ルールなどが含まれます。サービス提供を下支えする、より基礎的な要素といえるでしょう。
サポートプロセスを可視化することで、サービス提供のオペレーションを成立させるために必要な、組織的な基盤を明らかにすることができます。事業規模の拡大や効率化を検討する際にも、サポートプロセスは重要な視点となります。
6. 関連情報の追記・整理を行う
最後のステップでは、これまでに書き出した内容を整理し、必要に応じて関連情報を追記します。例えば、以下のような情報が考えられます。
- 所要時間:各アクションにかかる時間を見積もり、全体の時間設計に役立てる。
- 発生コスト:各アクションの実行にかかるコストを可視化し、採算性の検討に活用する。
- 課題・リスク:現状のオペレーションにおける課題や潜在リスクを洗い出し、改善策を検討する。
- 改善アイデア:課題解決や効率化に向けたアイデアを付記し、サービス改善に役立てる。
こうした情報を付け加えることで、サービスブループリントはより戦略的な意思決定や、具体的なアクションプランの策定に活用できるようになります。
また、項目間の関係性を矢印で結んだり、課題箇所をマーキングしたりと、視覚的な分かりやすさを高める工夫も有効です。最終的な整理を行い、内容を確認しながら完成度を高めていきましょう。目的を意識しながら一つ一つのステップを丁寧に進めることが、実効性の高いサービスブループリントを作るコツです。
サービスブループリントの具体的な活用シーンとメリット
サービスブループリントは、サービスの設計や改善、組織マネジメントなど、様々な場面で活用できるツールです。ここでは、3つの主要な活用シーンとそのメリットを紹介します。
新規サービス設計での活用
新規サービスの立ち上げにおいて、サービスブループリントは大きな力を発揮します。サービスのコンセプトを具体的なオペレーションの形で可視化することで、アイデアを実際の業務フローや顧客体験の形で描き出し、関係者間で共有しやすくなります。
また、サービスの提供に必要なリソースや体制、システムを事前に明らかにすることで、実現可能性を検証し、必要な準備を進められます。サービスブループリントを活用することで、スムーズな立ち上げを実現しましょう。
既存サービス改善での活用
サービスが軌道に乗った後も、継続的な改善が欠かせません。サービスブループリントは、既存サービスの課題や改善点を発見するためのツールとしても役に立ちます。
フロントステージ・バックステージの各アクションを可視化することで、ボトルネックや非効率な部分が浮き彫りになります。利用者の声などと突き合わせると、サービスの品質向上につながるポイントが明らかになるでしょう。
可視化された課題に対して、具体的なオペレーションの改善策を立案し、実行することで、サービスの効率化と品質向上を実現できます。サービスブループリントは、既存サービスの「見える化」を通じて、改善活動を加速するためのツールといえます。
部門間連携の強化での活用
サービス提供では、複数部門の連携が不可欠ですが、うまくいかないケースも少なくありません。サービスブループリントは、各部門の役割と連携ポイントを可視化することで責任の所在を明確にし、円滑なコミュニケーションを促します。
サービスの品質向上のためにも、部門横断的な連携は重要です。サービスブループリントを用いて各部門の役割と依存関係を可視化することで、各部門が一丸となって改善策を検討・実行し、組織全体でのサービス品質の向上を目指しましょう。
サービスブループリントとカスタマージャーニーマップの違い
カスタマージャーニーマップがユーザー視点での体験の可視化を目的とするのに対し、サービスブループリントはサービス提供プロセス全体の可視化に重点を置いています。
それに伴い、構成要素も異なり、カスタマージャーニーマップがユーザーの行動や思考、感情を中心とするのに対し、サービスブループリントはユーザーアクションに加え、フロントステージ・バックステージのアクションやサポートプロセスなど、より幅広い要素を含みます。
両者をプロジェクトの目的やフェーズに応じて使い分け、連携させることで、ユーザー視点とオペレーション視点を統合したサービス設計が可能になります。
サービスブループリントの活用におけるポイント・注意点
適切な粒度を選ぶ
サービスブループリントの粒度は、目的に応じて適切に設定する必要があります。詳細すぎると全体像が見えにくくなる一方、大雑把すぎては実践的な判断につながりません。ユーザーアクションを起点としつつ、フロント・バックステージの業務プロセスや関連システムを過不足なく可視化できる粒度を選ぶことが重要です。
関連する様々なメンバーを巻き込む
サービスブループリントの作成には、関連する様々なメンバーの意見を取り込むことが重要です。企画、開発、営業、カスタマーサポートなど、サービス提供に関わる部門のメンバーを巻き込み、それぞれの視点からの気づきを集約すると良いでしょう。ワークショップなどの場を設けて、協力してブラッシュアップしていくことをおすすめします。
実際のオペレーションを反映する
サービスブループリントは、あくまでも現実のオペレーションをベースに作成する必要があります。実際の業務や顧客の声に耳を傾けながら、リアリティのある設計を心がけましょう。
現場の声を反映することで、実践的な改善につなげることができます。
継続的に更新する
サービスブループリントは、一度作成すれば完成ではありません。サービスの改善や環境の変化に応じて、継続的にアップデートしていく必要があります。定期的に見直しの機会を設け、最新の状況を反映したものにするよう心がけましょう。サービスブループリントを常に最新に保つことで、サービス設計の指針として活用し続けることができます。
ただし、サービスブループリントはあくまでもツールの一つであり、万能ではありません。他のフレームワークやツールとも組み合わせながら、サービス設計のゴールに向けて柔軟に活用していくことが重要です。
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監修 | |
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Baseconnect株式会社 マーケティングチーム マネージャー 河村 和紀(かわむら かずき) 大手人材紹介会社に新卒入社。その後、Webメディア「ferret」を運営する株式会社ベーシックに入社。営業、営業企画、イベントマーケを経て、マーケティングマネージャーに就任。 主な寄稿実績『マーケター1年目の教科書』、『MarkeZine(マーケジン) vol.66』 |