科学的管理法とは？3つの原理やもたらした効果、問題点を解説

科学的管理法という言葉をご存知ですか。科学的管理法は大量生産を可能にするなど現代の産業の基盤となっている考え方です。
この記事では、科学的管理法の3つの原理やもたらした効果、問題点について解説します。

科学的管理法とは、工場労働者の作業を客観的・科学的に分析し整理した生産管理方法のこと

科学的管理法とは、工場労働者の経験に基づいた主観的な作業を客観的・科学的に捉え、分析と整理をした生産管理方法のことです。

科学的管理法は、アメリカの経営学者であるフレデリック・テイラー氏が20世紀初頭に提唱した手法です。当時は従業員の経験や習慣に頼る経営が一般的であったため、科学的管理法の導入により生産計画を立てることで生産効率は大きく向上しました。

科学的管理法の３つの原理

課業管理

1つ目の原理は課業管理です。課業管理とは、従業員が1日にするべき仕事量を決め、管理することです。課業とはノルマを指し、模範的な従業員の仕事量を参考にしてやや高い目標を設定します。工場で使用する工具や手順を統一して、従業員の経験を問わず同様の条件で働かせます。最も効率的な「唯一最善の方法」を確立し、従業員に浸透させることが大切です。

また、課業を達成できた従業員には単位時間当たりの賃金を割り増しで与え、達成できなかった従業員には単位当たりの賃金を割り引いて与えるというような給与システムを設けます。従業員は自身の仕事量に応じて賃金を受け取ることができるため、モチベーションを向上させられます。

作業の標準化

2つ目の原理は作業の標準化と呼ばれます。これは、課業を達成するための作業の流れを生産性の高い労働者をもとに標準化することを指し、「時間研究」と「動作研究」の2つの要素に分けられます。

時間研究とは、課業の設定に必要な各作業にかかる時間を決めるための研究のことです。模範的な従業員の仕事を基準にして「要素動作」と呼ばれる細かい作業に分け、各動作にかかる時間をストップウォッチで計測することによって、各作業にかかる標準的な作業時間を算出します。

動作研究とは、各作業の標準的な手法を決めるための研究のことです。動作研究も模範的な従業員の作業をもとに、最適な工具や手順を明確にします。

作業管理に最適な組織形態

作業管理に最適な組織形態とは、計画と実行が分離された組織のことです。科学的管理法が生まれる前は、熟練工が他の労働者を管理する「内部請負制」が主流で、生産を行う現場が生産計画も立てていました。科学的管理法が導入され、計画と実行を別々の部署が専任で担当することによって、より論理的な生産計画を立てられるようになります。

科学的管理法がもたらした効果

大量生産を可能にした

科学的管理法の導入によって現場の人が生産計画を立てる必要がなくなり、生産効率が大きく向上したことで大量生産が可能になりました。アメリカの自動車会社であるフォードもこの科学的管理法の考え方を導入し、すべての作業を流れ作業的に行えるようにしました。その結果、大量生産が可能になり、一般市民にも比較的手に入りやすくなりました。このことは、現代における作業のマニュアル化に貢献していると言えます。

産業を近代化させた

科学的管理法は産業の近代化に大きく貢献しました。経営に専念する部署により、客観的に生産現場を捉えられるようになり、効率的な生産や改善が可能になりました。また、生産をより適切に管理できるようになり、効果的なマネジメント方法が確立されました。

科学的管理法の問題点

人間性の軽視

科学的管理法の問題点の1つは、労働者の人間性が軽視される傾向があるということです。作業が標準化され、流れ作業が行われるようになると、従業員は工場の「歯車」や「機械」のように扱われるようになりました。アメリカでは1910年代に労働者による反対運動も起き、科学的管理法は人権侵害に当たるとして批判されました。

単純労働させるだけでなく1人の人間として従業員の考えを尊重することで、作業の改善点を見つけられたり、トラブルにも臨機応変に対応できたりというように、科学的管理法は現代でも活用されています。

組織の二極化

科学的管理法による組織の二極化も問題点の1つです。計画と実行を分けることによって、頭脳労働をするホワイトカラーと呼ばれる従業員と、肉体労働をするブルーカラーと呼ばれる従業員に分かれてしまい、対立が起こるおそれがあります。